内科クリニックが狙うべき”新しい市場”とは
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目次
いつもめでぃまがをお読みいただきましてありがとうございます。また新型コロナウイルス感染症に罹患された皆さま、および関係者の皆さまに心よりお見舞い申し上げます。
2023年以降、クリニック業界は大きく変化する
2022年も残すところあと1週間となりました。今年は皆様にとって、どのような一年間だったでしょうか?
年始から新型コロナウイルス感染症が猛威を振るい、夏、そして今と、定期的に感染拡大が繰り返される中、発熱外来の点数が変わったり、補助金の仕組みが変わったり、はたまた患者さんの受療行動が変わったり、と目まぐるしい1年を過ごされた先生が多くいらっしゃるのではないかと思います。
しかし今日は、もう少し大局的な変化について触れていきたいと思います。
まずクリニック業界を取り巻く今年の大きな変化といえば、診療報酬改定が挙げられるでしょう。
今年は無料セミナーでもお送りしましたが、一つ大きなテーマとして「DXの推進」が診療報酬にも反映されていました。
分かりやすいところでは、
・オンライン診療を初診から完全に解禁
・プログラム医療機器(アプリによる治療)の評価の新設
・電子カルテの標準規格推進
・電子的保健医療情報活用加算(オンライン資格確認システム)の新設
などが挙げられます。
この背景としてあるのは、少子高齢化による人手不足、2024年の「医師の働き方改革」、外来需要が激減する「2025年問題」など、これから数年以内に訪れる医療機関をとりまく外部環境の大きな変化です。
一つ一つは手段論としての「デジタル化」ですが、あくまでも「トランスフォーメーション」=「今までの”医療業務”の根本的な変革」を進めるための準備、制度設計であると言え、この準備を進めたのが2022年の診療報酬改定、そして本格的に動かしていくのが2023年になると言えるでしょう。そのため、巷では2023年が「医療DX元年になる」と言われています。
外部環境変化の中で、もう一つ重要な意識改革を
上述のようにこの先数年内で訪れる環境変化に対応していくため、国として医療DXを推進しており、その波に乗らなければならないのは言うまでもありません。しかしこれはあくまでも「国としての全体最適」を進めるための施策であり、対応しなければならない最低限のものです。「先生のクリニック」が生き残っていくための、個別の施策と混同してはならないものと考えています。
この外部環境の変化を、別の視点で見ていきましょう。
まず、言わずもがなですが人口減少があります。これは上記では人手不足という文脈でお伝えしましたが、患者さんも同様です。少子高齢化、そして「外来に通うことのできる高齢者」も日本社会全体で見たときには、2025年をピークにその後は減少に転じると言われています。
その一方で医療機関の数はここ10年以上、増加の一途を辿っています。患者さんは減る=需要が減少し、医療機関は増える=供給が増えることで、競争環境はますます激しさを増す一方でしょう。
既存市場が縮小していく中で業績を維持向上させるためには、ターゲットを拡大する必要があります。
ターゲットの拡大には、以下の3パターンがあります。
①既存サービス×新規市場
②既存市場×新規サービス
③新規市場×新規サービス
③は非常にハードルが高いため、一般的には既存の経営資源が活かすことのできる①または②を狙うのが定石です。
ここでは分かりやすく、サービス=診療、市場=診療圏、と置きましょう。
①の場合は、今の診療を遠方にも広げること=診療圏の拡大です。専門性を磨きこみ「差別化」として、遠方からでも来てもらいやすい環境を作る施策です。
②の場合は、診療科目や新たな検査、自費診療等の付加が分かりやすい例です。今の患者さんに対し、他の医療サービスを提供するというイメージです。
さて一般的には上記のように考えますが、医療の場合、一つ見過ごしている点があります。
それは、”未治療”患者の存在です。
例えば高血圧において、様々な統計データはありますが、治療が必要とされる患者は4,300万人にのぼるといわれています。
しかしその中で治療を受けている方は2,450万人、つまり実に4割以上の方が、治療が必要にも関わらず治療を受けていないという計算となります。
つまり、そもそも「ターゲットの拡大」の前に、
④既存の診療圏×既存の診療サービス
において、4割以上の拡大余地が残されている、ということになります。医療費・社会保障費の増大といった社会的課題だけでなく、経営的にも今後はここの領域は見過ごせないでしょう。
デジタルの発展により、他業種からの参入も
従来より、医療業界は保険制度に”縛られた”、かつ”守られた”業界でした。
医療機関は医師が開業することが大前提であり、医療サービスは非常に参入障壁が高いという実情があります。
しかしながら昨今の医療DXの進展、またデジタル領域の医療分野への参入により、様相が変わってきました。
例えば一般企業が医師を雇い、「自費」で「完全オンライン診療」という手段を使い、医療サービスを提供する形態が出てきています。
ここでは”医学的な是非”は論じませんが、例えば先ほどの”未治療”患者にとって、医療機関に通院することが負担なため治療から遠のいていた、という方にとって、完全オンラインで薬がもらえ、血圧を下げることができる、というのは一定以上のニーズがあるでしょう。
さらには既に先生のクリニックに受診されている患者さんの中にも、「実は通院が負担で…」と思われている方にとっては、多少割高であってもこうしたサービスに移行する患者さんも出てきてもおかしくありません。
今まで、医療業界においては”自院に来院してくれる”、いわゆる”待ち”の経営スタイルが当たり前でした。しかし市場の縮小、競争の激化、そして他業種からの参入といった外部環境の大きな変化を受け、この経営スタイルだけでは今後の内科クリニック経営は厳しくなっていくことは間違いありません。
2023年以降は、こうした流れが加速度的に広がっていくと思われます。ぜひ様々な情報にアンテナを張りながら、先生のクリニックが今後も地域の方々にとって求められるクリニックであり続けられるよう、必要な変革を進めていっていただければと思います。
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この記事を書いたコンサルタント
川本 浩史
大手製薬・医療機器メーカーのMRを経て船井総合研究所に入社。
船井総合研究所に入社後は心療内科・内科診療所を中心にコンサルティング業務にあたっている。
前職では大学病院での消化器手術から療養病棟の輸液・栄養管理に至るまでそれぞれの臨床現場に入り込み、医療従事者と共に『より良い医療の提供』を実現するために邁進してきた。
臨床に近い現場で医師と対話を重ねてきた前職の経験を活かし、机上の空論とならず臨床現場に即したエビデンスのある実行策を提案している。