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今冬もインフルエンザが猛威をふるっています。
先生方のクリニックも、昨年11月頃から非常に慌ただしい診療をされていたのではないでしょうか。
さて私たちが普段、クライアントである内科クリニック様のコンサルティングをする中で
治療薬について言及することはほとんどないのですが、
この冬はやはり新薬の『ゾフルーザ』についての話題がよく出てきます。
内容としては、どの程度の医療機関でゾフルーザが採用されているのか、
ゾフルーザの売上やシェアはどうなっているのか、といったことを聞かれることが多く、
先生方も強い興味を持たれている印象です。
改めてゾフルーザについては、「作用機序が従来の抗インフルエンザウイルス薬と異なる」ことや
「錠剤を一回内服するだけで良いという手軽さ」という点が受け入れられ
売上やシェアを拡大している一方で、「耐性ウイルスが出現しやすい」、
「症例が少なく未知の副作用が出現する可能性が否定できない」などの声もあり、
亀田総合病院が今冬は採用を見送るなどニュース等でも大きく取り上げられることで、
医療関係者ばかりでなく一般の人々からも大きな注目を集めています。
ゾフルーザの具体的な薬理作用・作用機序や「採用すべきか、すべきでないか」という判断については
我々が語るべき内容ではありませんので、ここでは改めて現状のゾフルーザの売上やシェア、
ゾフルーザが出てきたことによる『抗インフルエンザウイルス薬』という市場の動向、
医療業界に与える影響についてまとめました。
『抗インフルエンザウイルス薬』市場の中でのゾフルーザのシェアと売上
現在、主に処方されている抗インフルエンザウイルス薬について、以下の表にまとめました。
※一回治療当たり薬価は成人の場合
実は今シーズンのインフルエンザ流行の前、2018年10月時点で
日経メディカルが会員医師3,974人を対象に行ったアンケートによると、
≪2018年~2019年シーズンに主に使う方針の抗インフルエンザ薬≫のシェアは
1位:タミフル(43.6%)、2位:イナビル(27.4%)、3位:ゾフルーザ(15.1%)
という結果でした。
※日経メディカル(2018/11/15)『医師3974人に聞く◎今シーズン主に使う抗インフルエンザ薬は』
ところがこの想定シェアは、実際には大きく異なる結果となったことは先生方も
ご存知の通りかと思います。
※厚労省調査を元に作成(シェアは数量ベース)
2018年10月~12月の3ヶ月間に、「医薬品卸から医療機関への供給実績量」を
厚生労働省が集計した結果より算出したところ、
驚くことに抗インフルエンザウイルス薬市場においてゾフルーザは約半分近い47%という
圧倒的シェアを獲得し、ダントツで1位となっています。
また塩野義製薬の第三四半期決算Conference Call(2019年1月31日)の発表では
2018年12月時点での売上高が約99億円、
2018年度を通しての想定売上高は約130億円と報告していますが、
2019年2月8日に発表された『エンサイス スナップショットデータ速報』によると、
ゾフルーザの売上高は2019年1月単月で174億円(薬価ベース)であり、
医療用医薬品の国内売上高において製品別首位であったと報告されています。
これは同7位のイナビル(1月単月売上高71億円)を大きく引き離す結果となりました。
『ゾフルーザ』には画期的な“便利さ”がある一方、メリットばかりではない
「一回の内服で治療が完結」という患者様にとっての手軽さ、
アドヒアランスの優位性から売上・シェアともに快進撃を続けるゾフルーザですが、
当然ながら冒頭述べた通り、メリットだけという事ではありません。
第Ⅲ相試験でも報告されている通り小児を対象とした77例のうち18例(23.3%)で
「アミノ酸変異株」が検出されており耐性化の懸念があるということ、
新薬であり従来の抗インフルエンザウイルス薬と作用機序が異なることから
未知の副作用が発見される可能性が否定できないこと、
薬価が高いこと、などが主な懸念点として挙げられています。
特に耐性ウイルスの出現については既にニュースでも取り上げられていますし、
薬価の高さは上記表の通り一目瞭然です。
同じく今シーズンに承認され、最も薬価が安い選択肢である
沢井製薬のタミフルGEとゾフルーザとを比較すると、一回治療当たりの薬価ベースで
4,789円÷1,360円=約3.5倍の医療費がかかる計算となります。
2017年~2018年シーズンにおける累積推計受診者数は約1,462万人とされています
(平成30年6月「国立感染症研究所 厚生労働省結核感染症課」発表)ので、
仮に今シーズンも同程度の受診者が発生したと仮定し、
極端な話ですがこの全ての患者にタミフルGEのみ・またはゾフルーザのみが処方された場合の
医療費を比較すると、タミフルGEの場合で約199億円、ゾフルーザの場合で約700億円と、
最大で約501億円の差が出ることになります。
2015年に画期的なC型肝炎治療薬として登場した
「ソバルディ」や「ハーボニー」(いずれもギリアド・サイエンシズ)、
2014年に悪性黒色腫治療薬として登場し、
2015年末に非小細胞肺がんに適用拡大されて話題となった「オプジーボ」(小野薬品工業)など、
近年非常に高い薬価が算定された薬が多くの臨床現場で使用されて売上を拡大し、
その年の医療財政に大きな影響を与えたことは記憶に新しいことかと思います。
これらと比べるとゾフルーザの場合、金額的なインパクトは小さいと言えますが、
決して見過ごすことのできる金額ではないと言えます。
処方薬の選定基準を改めて考える機会に
今シーズン、“便利さ”という側面が大きく取り上げられ
期待の新薬として爆発的に普及し、売上・シェアを拡大したゾフルーザですが、
本来、処方される薬は患者背景や期待される治療効果、副作用との兼ね合い、医療費負担など、
多角的な視点によって“その患者様にとって最適な治療法は何か”という基準で選択されるべきものです。
2018~2019年シーズンの抗インフルエンザウイルス薬市場は、
期待の新薬としてのゾフルーザの登場や後発品の出現などによって、
医療関係者ばかりでなく一般の人々からも大きな注目を集めました。
この影響を受けて来シーズン以降、様々な選択肢が存在しているこの市場が
どういった動きを見せるのかが注目されます。
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この記事を書いたコンサルタント
川本 浩史
大手製薬・医療機器メーカーのMRを経て船井総合研究所に入社。
船井総合研究所に入社後は心療内科・内科診療所を中心にコンサルティング業務にあたっている。
前職では大学病院での消化器手術から療養病棟の輸液・栄養管理に至るまでそれぞれの臨床現場に入り込み、医療従事者と共に『より良い医療の提供』を実現するために邁進してきた。
臨床に近い現場で医師と対話を重ねてきた前職の経験を活かし、机上の空論とならず臨床現場に即したエビデンスのある実行策を提案している。