クリニックの財務体制~クリニックの経営状態把握できていますか?~ ver.1
目次
クリニックのとるべき指針を決定するためには
平素より、大変お世話になっております。
株式会社船井総合研究所の長谷川でございます。
いつも「めでぃまが」をお読みいただき誠にありがとうございます。
今回は下記に当てはまる方にぜひお読みいただきたい内容となっております。
◆今のクリニックの財務状況を税理士さん頼みで把握している
◆増収増益をしていることはなんとなく把握しているが、どの程度利益が残っているかまでは把握していない
◆今後クリニックとしてどこの数値を伸ばして、どこの数値を抑えるべきか方針を立てたい
◆スタッフに今後のクリニックとしての戦略や取り組むべき施策を提示をしたい
上記のようなお悩みやご希望がある方は、まずは本メルマガにて「財務指標の基礎知識」について理解を深めていただき、今後のクリニック運営の対策立案の一助としていただけますと幸いです。
尚、本メルマガは月一回ごとに「クリニックを財務体制と組織体制から見たときの考え方」をシリーズとしてお送りしていきます。初回である本回では、最も把握すべき重要な指標とその考え方についてお伝えいたします。
昨今の診療所の収益鈍化傾向について
昨今の医療業界では、売上が伸びにくくなる原因が多く存在しています。
例えば『診療報酬の改訂』です。医科クリニックの初診点数が288点、再診点数が73点に変動し、4%も減少しています。これは患者数の増減が無いと仮定すると収益はほぼ3%近く減ることとなります。
また『競合の増加』という点も、思うように売上が伸びなくなっている原因の一つです。有床の病院や診療所が減少している中、無床の診療所は増加しています。例えば、2018年から2019年の厚生省の調査によると、800施設も増加しています。(参照:https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/19/dl/02sisetu01.pdf)皆様のクリニックの周りでも駅前に開業する競合クリニックが多くあるのではないでしょうか。このような背景からも、今まで通りのクリニック経営では新規の患者さんが集まらなくなることは自明です。
また上記のような収益面だけではなく、コスト面でも変化が起きています。特に人材採用です。ハローワークからの問い合わせも明らかに減少し、人材採用が難しくなっている地域が多くなってきていることが最近の傾向として指摘できます。人材紹介や有料の求人媒体を駆使することが当たり前になってきている中、自ずと採用コストは増加してきており、無視できない額になってきているケースが多く散見されます。
そのようなめまぐるしい時代の移り変わりの中で、自院がどの程度の収益を保っているかを把握しておく事は「時流適応」して今後に備えるために必須の条件となります。
では時流適応するために、何から把握していくべきかについてお伝えして参ります。
医業利益・経常利益・税引前当期純利益・当期純利益とは?~利益の種類から把握~
まず始めに、上記4つの利益の違いをはっきりと認識できておりますでしょうか?損益計算書において利益はこのような種類分けがされており、それぞれが指し示す意味と、その後に取り組むべき施策が変わってきます。
それぞれの利益について見ていきましょう。
①医業利益
式としては【医業収入ー費用=医業利益】となります。基本的な保険診療や自費診療による売上をここでは医業収入と呼称します。まずここが最低限マイナスになっていないこと、これは必須の条件になります。この数値は恐らく多くの先生方が把握されているものになるかと思います。
②経常利益
式としては【医業利益+医業活動以外の収益ー医業活動以外の損失=経常利益】となります。具体的に足し引きするのは、受取利息、受取配当金などの収入と、支払利息などの支出や雑収入などになります。上記の項目はそこまで多額になることはないため、医業利益とは大差が無い値になります。ちなみに返済原資として見込める数値ですので、金融機関は重視しているようです。
③税引前当期純利益
式としては【経常利益+特別な収益ー特別な損失】となります。例えば、固定資産の売却や役員の退職金、災害補填などといった突発的に生じた損益のことを指します。これは内容にもよりますが、毎期発生するものでもないため、この数値が赤字になっていても経常利益が黒字であれば取り急ぎは問題ありません。次の期には黒字に戻せる見込みが高いためです。
しかし、経常利益が赤字でこの特別な損益でプラスになっている場合は、見過ごしてはいけません。なぜなら、根本的な医療活動において赤字を出している状態をいわば「ラッキー」で黒字にしているだけですので、解決すべきヒントは上記の①②に隠されています。
④当期純利益
式としては【税引前当期純利益ー税金=当期純利益】となります。③から納税を済ませて手元に残った純粋な利益を指します。これを投資に回すも、内部留保するのも自由ですが、ここを黒字で着地させることは最優先に目指すべきものの一つです。
以上がそれぞれの利益についての内容でしたが、ここまで把握して始めてスタート地点となります。ここからこの利益をどのように経営改善・向上に繋げていくかについてお伝えしていきます。
まず財務状況ごとにパターン分けしていきます。
⑴医業利益が悪い場合
そもそもの医業収入が少ないか、費用が多すぎるか、またはその両方ということになります。
・医業収入が少ないケース
外来で考えるならば、医業収入の構造として、「外来患者数・診療単価・来院日数・レセプト単価」このあたりの数値がどのように推移しているかに着目をしましょう。そして保険診療と同時に、自費診療の展開も視野に入れつつ、どの数値が悪いかをよく分析していきましょう。追いかけるべきは患者さんの「数」なのか「質」なのかだけでも方針は大きく変わってくるでしょう。
・費用が多すぎるケース
医療機関の費用は多岐に渡ります。人件費はもちろん医薬品・診療材料費・委託費・設備投資費用等々。それぞれの費用がいつ、どの程度、どうして増えたのかという視点で深堀りをしていきましょう。そして出てきた原因が慢性的なものか一過性のものかに分類し、一過性のものから対処をしていきましょう。フタを開けてみれば、在庫管理の徹底不足や、発注管理不足というようなオペレーション次第ですぐに対策ができるものがあるかもしれません。
反対に人件費や人材採用などは慢性的な原因です。ここは簡単には解決ができないため、対策をしっかり練る必要があります。
⑵経常利益が悪い場合
医業利益までは良い金額でも、経常利益が悪いというのは、医業活動ではなく財務活動が焦点となります。医業外費用に含まれる最も注視すべき項目は「支払利息」です。借入が超過している場合、支払利息が多額になります。すると、損益計算書以前にキャッシュフロー計算書の方で問題になりますので、キャッシュフロー計算書の観点から対策を練る必要があります。
まとめ
簡単ではございましたが、以上で損益計算書で最初に必ず把握しておきたい経営指標に関しての解説とさせていただきます。ここが経営者自らで把握ができていないと、何から着手すべきか分からず、気付くと手元にキャッシュが残っていないというような状態にもなりかねません。そしてそれは、いざ先行投資をしてよりクリニックを前進させたいと思っても、それが実行できないということになってしまいます。最悪の場合は、休診といった手段を取らざるを得なくなるかもしれません。
日々の診療から収益構造を見直して、利益率を少しずつでも上げていくことを今回はご提案させていただきました。今回で現状が把握できましたので、次回は取るべき具体的な施策についてお伝えしていければと思います。
今回のメルマガを通して、「利益を確認したい」、「計算結果を確かめたい」、「医業収入を上げる方法が知りたい」、このように思われた方はぜひ、下記のボタンよりお問い合わせください。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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この記事を書いたコンサルタント
長谷川 寿人
大学卒業後、新卒として船井総研へ入社。
入社後は、主に人材開発・組織開発を中心に、不動産業界や士業業界にてコンサルティングに携わってきた後に、医療業界のコンサルタントへ。
組織のエンゲージメントを高めるマネジメント施策や、評価制度、研修、人事労務補助金対策などを得意としている。他科目のコンサルティングを経て、皮膚科・美容皮膚科が専門。
皮膚科保険診療においては基本の集患から、院内のキャパシティー増大のための診療効率化施策を展開。
美容皮膚科では、4p+1Cの原則に則り、適切かつ売り上げ最大化ができるような料金設定・機器選定・予約導線整備・販促強化を、自院の強みを最大限活かしてコンサルティングしている。
同時に院内の組織体制についても、クリニックに合わせたものにカスタマイズして実施している。攻めの施策・守りの施策両面から、クリニック経営を支えていく。