賃上げ倒産を防げ! ベースアップ評価料だけでは足りない「人件費率35%」の壁

  • 内科(内視鏡)
公開日
更新日
執筆者石川 聖
コラムテーマ診療報酬改定
SHARE

皆様、こんにちは。船井総合研究所の石川です。

昨今の物価高騰と、国全体で進む「賃上げ」の波は、クリニック経営にも深刻な影響を及ぼしています。2026年診療報酬改定の短冊においても、「賃上げや業務効率化・負担軽減等の業務改善による医療従事者の人材確保に向けた取組」が重要項目として挙げられています。

政府は「ベースアップ評価料」などで医療機関の賃上げを支援する姿勢を見せていますが、現場の院長先生からは「焼け石に水だ」という悲鳴が聞こえてきます。今回は、診療報酬の加算だけでは補いきれないコスト増にどう対抗するか、具体的な「数字」と「対策」についてお話しします。

1. 診療報酬アップ < 実勢コストアップの現実

まず、認識しなければならないのは、「診療報酬の改定率よりも、実勢のコスト上昇率の方が圧倒的に高い」という現実です。電気代やガス代などの光熱費は高騰し続けており、医療材料費も値上がりしています。そして何より重いのが「人件費」です。

実際に今回の改定で、外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)について、下記のように変更がありますが、実勢のコスト上昇率の法が高いのではないでしょうか。

  • 初診 17点(現行6点)
  • 再診 4点(現行2点)
  • 訪問診療時 イ(同一建物居住者等以外の場合) 79点(現行28点)
  • 訪問診療時 ロ(イ以外の場合) 19点(現行7点)

採用市場は完全に売り手市場となり、スタッフの確保には従来以上の給与提示が必要不可欠です。既存スタッフからも賃上げの要望が強まっています。ベースアップ評価料はあくまで「賃上げの一部」を補填するものであり、クリニック全体のコスト増をカバーできる設計にはなっていません。もし、医業収入に対する「人件費率が35%」を超えているなら、貴院の経営体質は危険水域(赤信号)にあると言わざるを得ません。

2. 人件費率30%を目指す「生産性革命」

売上(単価)が伸び悩む中で、高騰する人件費を支払い、かつ利益を残すにはどうすればよいか。答えは一つ。「少ない人数で回せる仕組み(高生産性モデル)」を作ることです。目標とすべきは、人件費率30%以下です。

これは「スタッフの給与を下げる」という意味ではありません。むしろ、一人当たりの給与は上げつつ、総労働時間や人員数をコントロールするのです。そのために不可欠なのが、「医療DX」による業務の自動化・効率化です。

短冊でも「業務の効率化に資するICT、AI、IoT等の利活用の推進」が掲げられていますが、これは単なる加算要件ではなく、クリニックが生き残るための必須条件です。

3. 具体的なコスト削減・効率化アクション

では、具体的に何をすべきか。今すぐ着手できるアクションは以下の通りです。

  • 予約・問診の完全WEB化:電話予約や紙の問診票を廃止し、WEB予約とWEB問診(電子カルテ連携)を導入します。これにより、受付スタッフの電話対応や転記作業が激減します。
  • 自動精算機の導入:会計時の金銭授受を機械化します。締め作業の時間も短縮され、残業代の削減にもつながります。受付スタッフを1名減らせるほどの効果があります。
  • AIクラークの活用:紹介状の作成や、患者様への予約説明などを生成AIや動画マニュアルに代行させます。医師やクラークの事務作業時間を圧縮し、診療に集中できる環境を作ります。

まとめ

「人がやらなくていい仕事」を徹底的に機械に任せること。そして、浮いたリソースを「患者様へのケア」や「高付加価値な業務」に振り向けること。この「生産性革命」こそが、賃上げ圧力に負けない筋肉質な経営体質を作る唯一の道です。今からDX投資を行い、足腰を鍛えておくことを強くお勧めします。

執筆者 : 石川 聖

大学卒業後、製薬企業で18年間勤務し、MRとして幅広い診療科を担当。その後は一般用医薬品のマーケティングや社会貢献プロジェクトを通じ、組織マネジメント力を磨いた。勤務 中にMBA(経営学修士)を修了し、経営戦略や財務、組織マネジメントを体系的に習得。 現在は内視鏡領域に従事し、各医院の状況に合わせたマーケティング戦略の立案、診療フローの効率化、採用・定着支援など幅広く経営をサポート。 過去の事例をそのまま当てはめるのではなく、課題を丁寧に見極め、施策内容や順序まで精緻に設計し、確実に成果に結びつけることを重視している。