診療所経営の未来を切り拓く「RPA」の実践的活用法〜院長の「空き容量」が専門医療を加速する〜

  • 内科(生活習慣病)
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執筆者山田 海斗
コラムテーマ診療・業務効率化DX
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医療現場における慢性的な人手不足や働き方改革が叫ばれる昨今、多くのクリニックでDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進が急務となっています。令和8年度診療報酬改定の基本方針においても、「業務の効率化に資するICT、AI、IoT等の利活用の推進」や「タスク・シェアリング/タスク・シフティング、チーム医療の推進」が重点課題として明確に掲げられました。

現在、マイナ保険証の利用率や電子カルテの活用などによる加算が話題の中心となっていますが、国が示している基本方針を見れば、それが単なる序章であることは明らかです。

近い将来、タスクシフトやDXは「やればプラスになるもの」から、「できていなければ評価されない当たり前のインフラ」へと変わっていきます。国のルールが完全に変わる前に、今すぐ人間とシステムの役割分担に取り組む必要があります。

本コラムでは、これからのクリニック経営において必須となる「RPA(Robotic Process Automation)」などのシステム活用術と、それを起点としたタスクシフトの考え方について解説します。

RPA活用の真の目的は「院長が休むため」ではない

DXやRPAと聞くと、「スタッフの負担軽減」や「院長自身の労働時間削減」を第一の目的と捉えがちです。しかし、経営的な視点から見た真の目的は、院長が休むためではなく、より多くの専門患者を診るための「空き容量(キャパシティ)」を作ることです。

医師は診断・方針決定・最終判断に集中し、「作業」を徹底的に排除することが院内効率を上げるための基本となる考え方です。

実は、院長が想像する無駄と、現場が感じている無駄はほぼ一致しません。だからこそ、「鳥の目」で自院のボトルネックを特定し、最もボトルネックになっている箇所から着手していく必要があります。

カルテ業務をRPAへ移譲し、残業をゼロにする

クリニックにおいて最も医師の時間を奪っている「作業」の一つが、カルテ業務です。多くの医師が、残業をして明日の80人分のカルテを予習(コピペ)したり、診察中に患者の顔を見ずにタイピング作業に忙殺されたりしています。

ここで具体的な解決策となるのが、カルテ業務の「廃止(スクラップ)」と「シフト」です。未来のカルテ(翌日の準備など)については、深夜稼働型のRPAによる全自動生成へ完全移譲することが推奨されます。システムに任せられる定型的な転記や準備作業をRPAに代行させることで、医師のカルテ入力残業は消滅します。

また、現在のカルテ(診察中の入力)については、医療クラーク(シュライバー)の同席による代行入力へ移譲し、「1ドクター2診察室(2シュライバー)体制」を構築することが有効です。これにより、医師は診察時間中、キーボードを打つ時間をゼロにし、「医師にしかできない判断と対話」に全集中できるようになります。

タスクシフトのピラミッド構造と周辺業務の排除

タスクシフトを成功させるためには、組織のピラミッド構造を理解する必要があります。最も基盤となる土台が「システム・インフラ」であり、その上に「事務・受付」「看護師・専門職」、そして頂点に「院長(医師)」が位置します。

医師のコア業務(医師にしかできないこと)は、「診察」「検査結果説明」「治療方針決定」の3つに絞られます。それ以外の、患者の呼び入れ、問診確認、検査説明、予約取得といった「周辺業務」は、従来は医師のタスクに混在していましたが、これらはすべてシュライバーや周辺スタッフへ移譲可能な業務です。

例えば、日々の診療において、患者が診察室に入室し、着席して荷物を置き、診察を開始するまでの「準備時間」や、診察が終わって次の患者が入るまでの時間は、1日の中で最も大きなロスを生んでいます。

RPAやシステムを土台とし、シュライバーを活用することで、医師はこの手持ち無沙汰な時間を排除し、診察室の回転を劇的に早めることができます。

「事前準備」の徹底で診察室での解読時間をゼロ化

システムを活用した効率化は、カルテ業務以外にも多岐にわたります。例えば、他院からの紹介状(紙)や健診結果を、医師が診察室でその場で読み解き、カルテに手打ちで要約する時間は本来不要な時間です。

これを廃止し、医療クラークがスキャンして「医師が診察室に呼ぶ前」に所定のフォーマット(主訴・既往歴・現在の処方)へサマリーとしてカルテ入力を済ませておく運用へシフトすべきです。

これにより、診察室での解読時間はゼロ化され、医師は入室後すぐに診断を下すことが可能になります。

さらに、事前のWeb問診と看護師の予診プロトコルに基づき、医師の診察前に必要な基本検査を完了させておくことも重要です。患者は忘れるし、思うようにITを使ってくれないという大前提に立ちつつも、システム側でカバーする仕組みを構築することで、医師は入室した瞬間から「結果の解釈」をスタートでき、患者の待ち時間と滞在時間を劇的に短縮できます。

「空き容量」を生かした集患と継続管理の戦略

RPAやシステム化によって生み出された医師の「空き容量」は、クリニックの成長を加速させるための強力な武器となります。余裕ができた枠に、戦略的に新患を流し込むことで、理想の成長の歯車を回すことができるからです。

例えば呼吸器内科においては、風邪患者の中から隠れ呼吸器疾患を見つけ出し、専門患者へ転換することが重要です。

しかし、呼吸器患者は継続率が低いという特徴があります。患者が来なくなる理由は、「診察待ちが長いのにも関わらず診察時間は短い」といった満足度の低さや、「咳が止まった時点で『治癒した』と誤解し、自己判断で通院をやめてしまう」といった病識の欠如にあります。

RPAやタスクシフトによって医師に「対話」の時間が生まれれば、見つけた専門患者をしっかりと教育し、治療継続率を高めて収益を安定させることが可能になります。「集患」と「継続」の両輪を回すためには、待ち時間の排除や病識付与、次回予約確定といった院内システムが連動して初めて完成するのです。

おわりに

RPAをはじめとするシステムの導入やタスクシフトは、単なるコスト削減ツールではありません。それは、医師がTop of License(自身の資格の最高レベルの業務)に集中し、圧倒的な効率化と診療品質の向上を実現するための戦略的投資です。

従来の「手作業による時間の負債」を解消し、IoTやRPAを活用した完全自動化・工数ゼロの世界へと歩みを進めること。それこそが、これからの時代を生き抜くクリニック経営の最適解と言えるでしょう。明日の診療から、ぜひ「作業のスクラップ&シフト」の第一歩を踏み出してみてください。

執筆者 : 山田 海斗

大学を卒業後、船井総合研究所に新卒として入社。入社後は、医療業界のコンサルティングに従事し、主に呼吸器内科と消化器内科クリニックを専門としている。院長先生に心から『あなたがいてよかった』と思っていただくことを第一に、『即時業績アップ』という短期的な成果と、クリニックを核とした『地方創生』という長期的なビジョンの両方を、先生に深く寄り添い、伴走することで実現している。