忙しさの正体をデータで暴く「診療見学」のすすめ:1分のロス解消から始める次世代型チーム医療

  • 内科(生活習慣病)
公開日
更新日
執筆者山田 海斗
コラムテーマ診療・業務効率化DX
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毎日多くの患者さんと向き合い、休む間もなく動き続けているのになぜか診療が回らない。その「忙しさの正体」を正確に言語化できる先生は決して多くはないのではないでしょうか。

問診の確認、検査の詳細な説明、あるいは次回予約の取得に、それぞれ具体的にどれくらい時間がかかっているかを正確に把握することは、日々の診療をこなす院長先生ご自身にとっては極めて困難です。

クリニックの診療効率を根本から改善するための第一歩は、外部の客観的な視点による「診療見学」を実施し、現場のボトルネックをデータとして抽出することにあります。

「虫の目」から「鳥の目」への転換:診療見学の真の目的

診察室の中の目の前の患者さんだけを見ている状態では、「毎日忙しい」という感覚だけで終わってしまい、根本的な課題解決には至りません。どの工程が原因で混雑しているのかを特定できなければ、改善策が単なる「スタッフにもっと頑張ってもらう」という精神論になってしまいます。

診療見学の最大の目的は、患者さんが院内で呼び出しを待つ時間から、会計を済ませて帰るまでの全工程の時間を細かく計測し、全体を俯瞰することです。これにより、院内のどの工程で患者さんが滞留しているのか、あるいは誰のどの作業が余計なのかが客観的なデータとして分かるようになります。

属人的な頑張りに頼るのではなく、再現性のある「仕組み」としての改善を行うためには、この全体俯瞰による現状把握が欠かせません。

診療見学が暴き出す「1分のロス」の影響力

クリニックの効率化を図る際、感覚ではなく具体的な「時間」を計測して課題をあぶり出すアプローチが極めて重要です。診療見学で得られたデータは、クリニックの課題を鮮明に映し出します。

  • 時間がかかっている項目を可視化することで、院内の混雑や患者さんの満足度低下につながりやすい「患者の待ち時間」を明確に特定できます。
  • 同時に、クリニックの要である「医師の診察時間」がどれだけ確保されているか、あるいはどの周辺業務に削られているかを浮き彫りにします。
  • 例えば、問診の確認や検査の説明において、患者1人あたりたった1分の効率化ができたとします。
  • 1日80人以上の患者を診るクリニックであれば、それだけで合計80分以上もの大幅な効率化につながり、非常に大きなインパクトを生み出します。
  • 実際の見学事例では、診察室での問診に約1分半もの時間を要していたケースがあり、これを事前に代替するだけで全体で120分以上の節約が可能になることが判明しています。

ボトルネックを解消する「タスクシフト」の原則

診療見学によって「医師や特定のスタッフが抱え込みすぎている業務」が明確になったら、次に行うべきは徹底した分業化(タスクシフト)です。

  • タスクシフト・ピラミッドの原則:ドクター(診断・治療方針の決定)、有資格者(検査・指導)、無資格者(予診・代行入力)、システム(予約・Web問診)という4層構造を意識します。
  • 上の層の仕事を下の層へ渡し、決して下から上へ逆流させない(医師が拾わない)ことが移譲の原則です。
  • 実働は下から構築:タスクシフトの考え方は上からですが、実行は下(システムや無資格者)から行います。土台のシステムが弱いと、上の層すべてが崩れてしまいます。

見学で見えた「医師の待機時間」を消滅させる空間設計

診療見学を実施した結果、医師の「待ち時間」が大きなロスとして可視化されるケースは珍しくありません。従来の1つの診察室で診療を行っている場合、患者様の入退室や荷物の準備などを医師がその場で待つ時間が必ず発生してしまい、これが1日トータルでは膨大なロスを生んでいます。

この物理的な時間のロスを消滅させるための具体的な改善策が、「1ドクター2診察室(シュライバー)体制」への移行です。

隣り合う2つの診察室にシュライバー(医療クラーク)業務を担うスタッフをそれぞれ配置し、あらかじめ次の患者様を入室・準備を済ませて待機していただきます。医師が一方の診察室での診療を終えれば、先生ご自身が隣の診察室へ移動し、すぐに次の診察を開始します。

この「先生が動く」オペレーションへと改善することで、患者の着席を待つタイムロスが消滅し、医師は時間を極限まで有効活用できるようになります。

見学データに基づく「周辺業務」の徹底的な仕分け

また、診療見学のデータから「医師にしかできないコア業務」と「周辺業務」が診察室で混在している実態が明らかになった場合、先述のタスクシフト・ピラミッドの原則に則った業務の徹底的な仕分けが不可欠となります。

空間の工夫である「1ドクター2診察室体制」を最大限に機能させるためには、これまで先生ご自身が担当されていた「患者の呼び入れ」「問診の再確認」「検査の詳細説明」「次回予約の取得」といった周辺業務を、すべてシュライバー等のスタッフへ完全に移譲します。

医師は「診断・治療方針の決定」や「重症度の判断」といった、医学的判断が必要な対話にのみ100%集中します。

丁寧な予診や検査実施、生活指導などは有資格者(看護師や技師)が担い、システムに入力する作業は無資格者(クラーク)が担うといったように、スタッフ主導で患者さんをケアする体制へと移行させるのです。

すべてを一人でこなそうとすることによる疲弊から抜け出し、質の高いチーム医療を実現する強力な改善策となります。

成功事例を自院に取り込む「他院見学」の価値

自院の課題を特定するための見学だけでなく、すでにこうしたタスクシフトや空間設計の仕組みを高いレベルで確立している他院の現場を見学することも、非常に有効な手段です。

例えば、見学データをもとにこれから「1ドクター2診察室体制」を構築したいと考えているクリニックが、実際にそのオペレーションがスムーズに回っているクリニックへ見学に訪れることで、多くの学びを得ることができます。うまくシステムと人材を活用しているクリニックの、最も効率的な連携方法やスタッフの動線の最適解を直接その目で見ることで、机上の空論ではない、生きた運用ノウハウを持ち帰ることができるのです。

自身の診療スタイルを客観的なデータに晒す「自院の診療見学」も、他院の優れた仕組みを学びに行く「他院見学」も、現状のボトルネックを打破するためには欠かせないプロセスです。客観的な見学データに基づいて導き出された1分1秒のロスの発見と、それを解決する具体的なオペレーションの導入は、クリニックを飛躍的に成長させる確実な起爆剤となります。

医師が一人で疲弊する体制から抜け出し、次世代のチーム医療を実現するために、まずは「見学」という客観的視点を取り入れることから始めてみてはいかがでしょうか。

執筆者 : 山田 海斗

大学を卒業後、船井総合研究所に新卒として入社。入社後は、医療業界のコンサルティングに従事し、主に呼吸器内科と消化器内科クリニックを専門としている。院長先生に心から『あなたがいてよかった』と思っていただくことを第一に、『即時業績アップ』という短期的な成果と、クリニックを核とした『地方創生』という長期的なビジョンの両方を、先生に深く寄り添い、伴走することで実現している。