本コラムでは、呼吸器内科クリニックにおける真の診療効率化と、それを実現するための組織づくりのノウハウについて解説します。
昨今の呼吸器内科クリニックにおいて、日々の診療業務に追われ、「時間がいくらあっても足りない」と実感されている先生は非常に多いのではないでしょうか。気管支喘息やCOPDなどの慢性疾患を適切にコントロールし、患者さんに長く通院していただくためには、単なる薬の処方にとどまらない、きめ細やかな対応が求められます。
しかし、これらの業務を効率化しようとする際、多くのクリニックが陥りがちな失敗があります。それは「とにかく今の作業を手分けしよう」と無計画にスタッフへ仕事を振ってしまうことです。真の診療効率化を実現するためには、決して外してはならない絶対的な原則があります。
それが、「業務移譲の鉄則:考え方は『上』から、実働は『下』から」というアプローチです。本稿では、この最も重要となる考え方を軸に、具体的な効率化のステップを紐解いていきます。
設計図づくり:考え方は「上」から
効率化に向けたタスクシフト(業務移譲)の第一歩は、組織の頂点である「医師(院長)」の業務を見直すことから始まります。これまでの一般的な呼吸器診療では、医師1人がすべて対応し、吸入指導などで時間がとられ、診察時間が押し患者を待たせるという「院長1人が多忙・疲弊」する状態に陥っていました。
この状態から脱却するための「トップダウンの思考」とは、院長の役割を「診断と治療方針の決定」のみに絞り込む(没頭できる状態にする)というゴールをまず設定することです。
「医師しかできないこと」以外をすべて洗い出し、それをいかにして看護師や臨床検査技師などの専門職へ下ろすか。さらに、看護師が抱える業務をいかに事務や受付へ下ろすか。そして最終的に、事務の業務をいかにシステムへ下ろすか、という上から下への流れるような全体設計図を描くことが、「考え方は『上』から」の真意です。
これにより、創出された時間で院長は経営にコミットし、クリニックの未来を築くための時間を確保できるようになります。
パンク回避の鉄則:実働は「下」から(システム・インフラの活用)
緻密な設計図が完成したからといって、いきなり上から現場へ業務を降ろしてはいけません。医師もスタッフもすでに日々の業務で手一杯な状態であり、そこに新たなタスクを上から丸投げすれば、現場は確実にパンクしてしまいます。
そこで実際に行動へ移す際は、一番下の「土台」から着手することが鉄則となります。これが「実働は『下』から」です。具体的には、まずシステム・インフラを導入し、一番下層の業務を自動化・省力化します。例えば、受付・会計・処方箋渡しといった事務業務に対して、自動受付機や自動クレジット登録による後払い会計、電子処方箋を導入します。
このようにシステムを活用して現場の事務・受付スタッフに「時間的余白」を作り出して初めて、看護師の業務を事務へ、そして医師の業務を看護師へと、安全にタスクを移譲していくことが可能になるのです。

診察室に入る前の「事前情報整理」によるタイムパフォーマンス向上
インフラが整い、スタッフにゆとりが生まれたら、次に取り組むべきは「診察前の情報整理」です。医師がゼロから問診を行い、タイピングしながら診断を考えるプロセスは、タイムロスを生む大きな原因です。
ここでも「実働は下から」の原則に基づき、Web問診を改修または導入して、事前に過不足なく情報を聴取する仕組みを作ります。
実際の診療見学の事例(クリニックにご訪問させていただき、各場所での所要時間やオペレーションの状況を分析させていただきます。)では、問診に1分30秒の時間が経過していることがありました。患者1人あたりたった1分〜1分30秒の効率化であっても、1日80人以上の診察数があるクリニックであれば、結果として80分〜120分の節約につながる大きなインパクトを持ちます。
また、このWeb問診や前問診は単なる時間短縮にとどまりません。診察室に入る前に、患者様自身が自分の疾患に対して意識を持ち、必要な呼吸機能検査が何であるかを理解し、検査の説明をすでに受けている状態を作り出すことができます。医師がカルテを開く前にはすでに必要な情報(SOPのSなど)が記入されており、医師は「最終的な判断と対話」にのみ集中できるようになります。
診察後のボトルネックを解消する「専門業務の分業化」
診察前だけでなく、診察後のフローもタスクシフトの重要な対象です。気管支喘息やCOPDの患者さんに対する丁寧な「吸入指導」や「生活指導」、「定期的な検査の意義の説明」は非常に重要ですが、これらを医師が行う必要はありません。
これからの診療スタイルでは、スタッフ(看護師・検査技師)の役割として、丁寧な予診、検査実施、検査結果の説明、吸入指導、生活指導へとタスクシフトさせます。具体的には、患者1人当たりの対応時間を約10分とした場合、医師は「診察・検査結果説明」の3分のみを担当し、看護師が「問診・指導」に5分、検査技師が「検査・検査説明」に2分をかけるといった分業体制を構築します。
医師の直接的な対応時間は短くなりますが、スタッフが手厚くフォローすることで、患者さんが医療を受けられるトータルの時間はむしろ増加(従来の2倍の手厚さ)し、医療の質と患者満足度の向上を同時に達成できます。
おわりに
呼吸器内科における診療効率化とは、ただ急いで診療を回すことではありません。「業務移譲の鉄則:考え方は『上』から、実働は『下』から」という原則を徹底することで、無駄な業務による疲弊を防ぎながら、高い診療クオリティを維持することが可能になります。
システムインフラによる下支えからスタートし、段階的にスタッフ主導のチーム医療を確立していくことで、日々の診療に確かな「ゆとり」を生み出し、長く地域に愛される盤石なクリニック経営を実現していただければ幸いです。



