船井総研)法人として今に至るまでの事業展開について教えてください
草思会
窪田医師)1978年頃、私は都立墨東病院の精神科救急に勤務しておりました。夜間・休日の精神科救急に受診する患者さんは周囲に支援する人が少ないために、夜中に病状が悪化しトラブルを起こした時に警察等に保護さ
れ、救急に来るというパターンが多かったのです。勤務している中で、再発者が多くこのような患者さんたちの退院後の生活を支える環境が必要だと強く感じました。
そこで”友の家”という、患者さんが自由に集まれるスペースを、関係者の多くの方から寄付を集めて街の中に作りました。これは、精神疾患患者の方は友達も少なく、1人で暮らしている方が多かったため、仲間を作る場所が必要という意味合
いで始めました。
次第に、就労を希望する方も出てきたので、障がい者自立支援法が出来る前に、 今日でいう就労移行支援事業所にあたる共同作業所等の、当事者が地域で安心して暮らしていくための地域拠点を整備しました。
そこで都の精神科救急に約8年間勤務した後に錦糸町で働き続けるために『クボタクリニック』を開設しました。クリニックは、錦糸町駅近くに『錦糸町クボタクリニック』を、2010年に2番目のクリニックとしてオープンし、
今はクリニック2ヶ所体制で日々の外来をしております。
船井総研)クリニックだけでなく、訪問看護や就労施設も錦糸町を中心に展開されておりま すが、1つのエリアに様々な業態を出店した背景や狙いはあったのでしょうか
草思会
窪田医師)1つのエリアに事業所を複数展開して、街全体で患者さんを支えるというモデルを目指しています。当法人は錦糸町を中心に、事業所を複数展開して当人に合った場を選んでいただくのを、「錦糸町モデル」と呼んでいます。
様々な拠点が1つのエリアに散らばってあることで、患者さんからすると自由に選べてここが自分たちの街という気分になります。クリニックだけだと、診察へ行って帰るだけになりますが、街にいくつか事業所があると今まで点だった関わりが面になります。
患者さんもすぐ仕事をしたい人もいれば、そうでない人もいます。支援が必要な課題はそれぞれ 全く異なりますので、複数の事業所が散らばっていることで患者さんが自分にあったサービスを
選べるのがこのモデルの特徴だと考えています。
船井総研)当初、訪問看護ステーションはどのような人員体制で運営を開始されたのでしょうか
草思会 窪田医師)当初は看護師5名体制で、今は12名体制です。常勤換算で言えば毎日4名~5名で
運営していますが、特徴としてはグループ内の他事業所と兼務をしてもらっている職員が多い点です。
船井総研)兼務をあえて多くしているとのことですが、それはなぜでしょうか
草思会 窪田医師)兼務を多くしている意図としては、職員に複数の事業所で勤務してもらうことで
コミュニケーションの質を高め、法人全体のサービスを理解してもらい、チームワークを良くする狙いがあります。一方、事業所数が増えるだけでは情報の流通が悪くなり、かえって混乱することもあります。事業所が多くあるからこそ、チームとしてお互いの情報共有を重視
して連携することが重要だと考えているため、兼務を多くしてもらっています。
船井総研)クリニックの外来患者が法人の訪問看護等サービスを利用することは多いと思い
ますが、相乗効果として何が期待できるのでしょうか。
草思会 窪田医師)クリニックからすると法人内に訪問看護ステーションがあることで、お互いの顔が見える関係
にあり、チームワークを組みやすいという利点があります。患者さんもデリケートな方が多いの で、以前クリニック内でもあの看護師さんと会ったことがあるといった様に、関わりが既にあると安 心する部分は大きいかと思います。
船井総研)訪問看護では看護師1人あたり1日何件を訪問するのでしょうか
草思会 井上看護師)近辺にお住いの患者さんに訪問するときは、多い日は7件・8件回る時もあり
ますが、平均でいえば5件ほどです。移動手段は自転車が主ですが、電車や車を使うケース もあります。範囲でいうと江東区や墨田区、江戸川区、台東区、葛飾区あたりが訪問先として多いです。
ただ、クリニックに通っている方でもエリア外や希望時間に訪問できないといったことがあるため、他の訪問看護ステーションさんにお任せしている場合も半数程あります。
船井総研)通常の訪問看護ではオンコール対応が主流だと思いますが、精神科特化である御社の場合はどうでしょうか
草思会
井上看護師)看護師の負担面を考えて弊社では導入していないです。クリニックの訪問診療においては24時間対応するケースがありますが、全体でいえば夜間に緊急対応や電話を取らなければいけないケースは年間で見てもほとんどないと思います。
船井総研)現役世代の患者が多いと思うのですが、サービス利用を続けていて精神科訪問看護や外来受診の必要性がなくなる(=卒業)というケースはあるのでしょうか
草思会 窪田医師)患者さんの疾病によります。うつ病の方だと一つの目安として1~2年程で卒業と
いう方も多くありますが、統合失調症だと再発がしばしばあり、安定した生活を維持してほしいというこちらの思いがあります。それでも患者さんの方が安定して外来に来なくなる場合や、中断になるケースはあります。
船井総研)精神科訪問看護をするにあたって精神科病棟等の勤務経験がない看護師でもやっていけるものなのでしょうか
草思会
井上看護師)経験がないからダメということは全くないですし、寧ろ経験がない場合の方が利用者のことを新鮮な目で見ることができる等うまくいくケースがあります。経験があるといっても利用者の考えにそぐわないパターナリズム等、精神科の経験が悪い方向に出るケースもありますので、精神科経験の有無は必ずしも重要ではないと考えています。
また、病院で働くのと、訪問看護のように実際に利用者の家庭に入るとうことは全然違いますので 精神科経験がなくても訪問看護の経験があれば精神科訪問看護に良い意味ではまる可能性もあります。
船井総研)精神科訪問看護に向いている看護師はどのような方なのでしょうか
草思会
井上看護師)基本的にどのようなタイプの人でも向いていると考えています。「あの看護師はお父さんのように人と接する」といった風に、人によって人との接し方は異なると思いますので、その人なりの接し方をすることが重要です。
勿論、利用者と合う、合わないというような事は当然ありますので、そういう場合は担当を変えるケースもありますが、特別こういう人は向かないといった事はないです。あえて言うなら
人の話を全く聴くことができないとい方は難しいかもしれません。
船井総研)精神科訪問看護の事業所数は増えていると思うのですが、それは、患者さんが増 えていることが大きな要因なのでしょうか
草思会
窪田医師)患者さんが増えている事も理由としてあると思いますが、訪問看護の対象者が高齢者だけではないと気づいた法人が増えたことが大きいかもしれません。加えて、高額な医療機器等が必ずしも必要とされないので、大きな設備投資も不要なことも事業所が増えている要因だと考え
ています。
船井総研)最後に今後の事業展開について教えてください
草思会
井上看護師)場所を見つけたり、新たに人材を採用する必要性はありますが患者さんの支援をする手段を増やすという意味でもグループホームなど新しい事業の展開は検討しています。実際、病院から退院する際に様々な事情で家に戻れないという方もいらっしゃいます。そういう意味で、グループホームは地域の精神疾患を抱える患者さんをより安心してこの地域で暮らせるためのサービスの一つになるのではないかと考えております。
船井総研)本日は大変お忙しいところお時間をいただきありがとうございました。