立川在宅ケアクリニック
今回は立川市にある「立川在宅ケアクリニック」の理事長 井尾 和雄先生にお話しを伺ってまいりました。井尾先生は2000年2月に在宅緩和ケアを提供する在宅専門診療所を開業され25年間地域医療の貢献に尽力されております。
取材のご依頼をさせていただいた際、市民向けの在宅緩和ケア講演会を予定しているのでご都合がよければと日程を合わせていただき快くご承諾いただきました。
取材日当日の講演会では満席であり、市民の方々からの質問にも笑顔でご対応されておられました。
日々の在宅医療だけでなくどのような活動をされているのかについて講演会を聴講させていただきその後も取材にて詳しくお話しいただきました。
●診療所の沿革について
2000年2月に立川市上砂町に在宅専門診療所として知り合いの調剤薬局の2階に「井尾クリニック」を開業しました。理念は「看る・診る・看取る」。在宅で最期まで過ごしたい患者さんを「訪問看護が看る、医師が診る、家族が看取る」体制を24時間365日提供することを理念に開院しました。当時まだ介護保険がなかったため、訪問看護ステーション、居宅介護支援事業所がなく手探りで開始したことを今でも覚えています。調剤薬局に関しても当時は麻薬を扱っているところはほとんどなかった状況でした。
2000年8月立川市富士見町に移転
(患者さん・ご家族の面談来院が不便なためバス通りに)
2008年8月立川市幸町に移転した際に名称を「立川在宅ケアクリニック」に変更
(スタッフが増えたため)
2023年8月立川市曙町に移転
(勉強会、研修会、講演会を増やすため)
2006年には看取り1000人を超え、
2024年2月29日現在では約4700名の看取りをしてまいりました。
●開業から約25年在宅医療だけでなく講演会などに取り組む理由(在宅緩和ケア講演会の内容からも抜粋)
開業してから定期的に、現在は毎月1回必ず市民向け講演会を行っています。聴講者が1人でも実施してきましたと力強く教えていただきました。
その中で当院では事前に患者さん、ご家族と面談し了承された上で診療計画をたて医師、訪問看護師が定期的に訪問する在宅医療を行っています。在宅で最期まで過ごしたい患者さんのため「訪問看護師が看る、医師が診る、家族が看取る」を実施するためです。患者さんの“覚悟”、家族の“覚悟”、医師の“覚悟”が在宅医療には必要だからです。
ここで講演内容に少し触れさせていただきます。
在宅緩和ケア講演会「死に方の極意、ACPの勧め~後悔しない最期の迎え方~」というタイトルで講演が始まりました。
日本における出生数と死亡数の差が約83万人と死亡数が上回っている現状がある。
2025年団塊の世代が75歳を迎え、後期高齢者の更なる死亡増加となる。
死は必ず訪れどこで死を迎えるのかを考える必要がある。現在では病院、施設、自宅がある。高齢者が救急車を呼び病院へ搬送された場合、肋骨が折れるまで必死に心肺蘇生がされることがある。一命をとりとめたとしても意識が戻らないということがある。一方で延命治療を希望しない在宅の癌患者さんたちがいることをご紹介。
約7割の方は自宅で最期を過ごしたいと希望がある。ただ実際は自宅で死亡と発表されている統計データには看取りだけではなく警察による検視も含まれている。自宅で過ごしたいという希望があるにも関わらず海外と比較し日本では病院での死が66%と異常な多さがある。
多くの患者は延命よりも痛みの緩和を希望する割合が多いのが実際である。悪性腫瘍と慢性疾患、認知症・老衰では死亡するまでの状態変化が違ってくる。最期の1ヶ月は介護と緩和ケアが必須である。死亡前1週間以内の状態、死亡前48時間以内、死の三徴候をわかりやすく紹介。
当院では痛くない、苦しくない、辛くない穏やかな看取りを実施している。家族がいても、いなくても家で看取る。希望があれば、施設・ホスピス等に移ることも対応できる。当院の在宅医療は在宅緩和ケアである。目的は家での穏やかな着陸である。
現在までに看取った患者は末期がんの割合が85%、非がん患者・難病も15%診ています。
冒頭にもお伝えしましたが全例面談をしています。当院は医師だけでなくスタッフ全員が患者さんと向き合うため“覚悟”を持っています。そのため患者本人、家族の“意思・病識・覚悟”を確認するためです。説明や理解が得られていない場合、患者家族は119を呼び、点滴などの治療を求めることに繋がるからです。
当院では痛みは我慢しないようにと患者さんにきちんと伝えています。海外と比較し日本では医療用麻薬の使用量が低すぎる。痛みが消える量が適切な投与量であり非癌患者にも医療用麻薬は使用できます。当院ではしっかり疼痛コントロールできる医師が在籍しています。
ここまで来るのに25年かかりました。仲間を作り、ネットワークを作り地域在宅緩和ケアチームが出来つつあります。活動としては定期講演会(死に方のトリセツ)・在宅ケアネットワーク(令和6年2月15日第98回)、多摩緩和ケア実践塾、多摩緩和ケアネットワーク、市民講演会、ニュースレター「在宅」、TZCニュースレター、学会発表、新聞や雑誌の取材、著書などを行ってきました。
このままでは看取り難民が増える。独居世帯も多く、孤独死が増えていく。そうなる前にACPの普及が必須である。日本の死亡場所の統計上では自宅であるが在宅看取りだけではなく検視が含まれるため真の自宅死かわからない。「地域包括ケアシステム」の目的は地域で最期まで支え、看取ることにある。普及のためには全国の市町村検視数の公表が求められる。ACPをわかりやすくするため当院では(Aあらかじめ、Cしにかた、Pプラン)と伝えている。
また「かかりつけ医」をきちんと知ってほしい。「かかりつけ医」とは患者の命に最期まで責任をもつ医師のことである。通院できる間は主治医であるが通院困難、寝たきり、癌終末期などの場合には24時間365日責任を持って最期まで診ることは困難である。独居の方が増えることを踏まえ、友人、知人も含め人生の終わりを考え文書として残しておく“ACPの作成”、家族や知人等に伝えておくことが必要です。
※ACP(アドバンス・ケア・プランニング)・・・将来の変化に備え、将来の医療及びケアについて患者さんを主体にそのご家族や近しい人、医療・ケアチームが繰り返し話し合いを行い患者さんの意思決定を支援するプロセスのことです。国は「人生会議」とも呼んでいる。
●今後の在宅医療についてお聞かせください
在宅医療は今後の日本の2040年問題を見据え、ますます重要視されます。
在宅医療を私が始めた当初は算定できる点数は低かったです。厚生労働省に掛け合ったこともあります。また皮下点滴やオピオイドの持続皮下投与を在宅で使用し始めたのも我々でした。
当院では研修医が毎年20名ほどきています。合計すると200名を超える研修医にきていただきました。研修医時代に在宅医療を経験した医師が現在活躍してくれています。また当院で勤務していただいた医師も数名開業しています。若い先生方が在宅医療に取り組んでいただけることは嬉しく思います。
ただ医師には“覚悟”が必要です。在宅医療だけでなく病院で勤務する医師にも強くお願いすることもあります。きちんと患者さんと向き合って伝えるべきことは伝えてほしいと依頼することもあります。
今後の在宅医療を始められる先生方には最期まで支える"心構え“と医師としての"覚悟”を持って取り組んでいただきたいです。
私は今後も引き続きこの立川市で地域の方々に真摯に向き合い在宅医療に取り組んでいきます。
【立川在宅ケアクリニック】
https://www.tzc-clinic.com/
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