地域医療の未来を切り拓く：患者さんの「安心」を追求する泌尿器科クリニックの挑戦

地域に根ざしながら、常に時代の変化に対応し、患者さんの真のニーズに応え続けなければならないのが今日の泌尿器科クリニック。今回は、その経営と医療に対する情熱的な取り組みについて、石川県野々市に位置するなかざわ腎泌尿器科クリニック院長の中澤先生にお話を伺いました。地域医療の最前線で奮闘する中澤先生の言葉には、患者さんへの深い思いと、医療の未来を見据える確かなビジョンが込められていました。

地域に選ばれるクリニックであるために：開業への決断

中澤先生がご開業を決めたのは、大学時代を過ごした第二の故郷でもある石川県です。
石川県には泌尿器科の新規開業が少なく、より多くの患者さんに新しい医療を届けられる大きな可能性を感じたと言います。長年培った知識と経験を、この思い出深い地で活かしたいという先生の熱意が開業を後押ししました。

「いつか開業しようと考えていたタイミングで、大学の先輩方がコロナ禍の診療で大変な思いをしているのを目の当たりにしました。
この困難な時期にこそ、地域のために全力を尽くすべきであると感じ、元々患者さんもいない、いわば『失うものがなかった』状況もあり、開業の判断に踏み切れました。結果的に、この決断が功を奏したと思っています。」と中澤先生は開業当時の胸の内を語ります。

クリニックの立ち上げ前から、中澤先生は驚くほどのスピード感で地域貢献に乗り出していました。具体的には、本格的なクリニックの建物が完成する前の段階から、テナントを借りて発熱外来や訪問診療を開始し、地域医療の一翼を担っていました。これらの活動を通じて、早くから地域の患者さんとの信頼関係を築き上げていったのです。この先行投資とも言える取り組みによって、クリニック開院時にはすでに多くの患者さんが来院する強固な基盤ができていました。

「当たり前」を疑い、新たな医療を追求する：日帰り手術と地域連携

開業から3年半、中澤先生は現状に甘んじることなく、常に医療の質と患者さんの満足度向上を追求しています。地域での認知度を高めるためのウェブサイトでの情報提供はもちろんのこと、患者さんの利便性を高めるための様々な工夫も凝らしています。

そして、中澤先生の経営手腕の真骨頂とも言えるのが、時代のトレンドを読み、ニーズにあった診療スタイルを取り入れているところです。
当初は手術を行う予定はなかったものの、医療技術の進化と患者さんのニーズの変化を敏感に察知し、前立腺肥大症に対するWAVE（経尿道的水蒸気治療）治療など、これまで大学病院で行われることが多かった専門的な手術をクリニックで提供できるようになったことは、地域医療において画期的な出来事です。これにより、患者さんは遠方の病院まで足を運ぶことなく、より身近な場所で専門的な治療を受けられるようになりました。

「今後も何か新しい術式が出てきたら、それがクリニックで提供できるものであれば、積極的に取り入れていきたいと考えています。泌尿器科の開業において、手術はこれからの軸になっていくのではないでしょうか。」と、中澤先生は未来を見据える確かなビジョンを語ります。

さらに、術後の管理に関しても、中澤先生は先進的な取り組みを進めています。訪問看護ステーションとの連携を強化し、単一の医療機関で全てを完結させるのではなく、地域全体で患者さんを支える法人連携の体制を構築しているのです。これにより、患者さんは安心して治療を受けられるだけでなく、退院後の自宅での療養も手厚くサポートされるようになりました。これは、患者さんのQOL（生活の質）向上に大きく貢献するだけでなく、医療資源の有効活用という観点からも非常に重要な取り組みと言えます。

患者さんに寄り添う「かかりつけ医」としての役割：効率化と質の追求

中澤先生のクリニックでは、1日の外来患者数は平均して60〜100名に上ります。
多くの患者さんに対応するため、効率的な診療を追求しつつも、患者さん一人ひとりへの丁寧な対応を忘れません。診察時間の短縮は多くのクリニックで課題となる部分ですが、中澤先生はそれを単なる時間短縮で終わらせません。

「診察自体は短時間で終わっても、その後のスタッフによるサポートや、検査結果の詳細な説明などを通して、患者さんとしっかり向き合う時間を確保するよう心がけています」

具体的には、尿検査などは機械による自動化を進め、そこで浮いた時間をスタッフが患者さんと直接コミュニケーションを取る時間に充てるなど、細部にわたる工夫を凝らしています。

保険診療が国の制度に大きく左右される中で、中澤先生は自由診療にも積極的に目を向け、患者さんの多様なニーズに応える努力も惜しみません。特にED治療のレノーヴァ導入は、北陸地域では最も早く導入されたこともあり、富山や福井といった遠方からの患者さんも来院するほど大きな反響を呼びました。自由診療の価格設定においても、都会のクリニックの相場を意識することで、患者さんにとって分かりやすく、納得感のある料金体系を目指しています。

中澤先生は、「患者さんの健康を生涯にわたって支えるかかりつけ医」として、急性疾患だけでなく、採血や尿検査を通じて潜在的な疾患を見つけ出し、長期的な視点で患者さんの健康をサポートすることを心がけています。

「どうしても泌尿器科は、緊急性の高い急性疾患の患者さんが多いですが、検査結果に合わせて、女性の方であれば、婦人科系の疾患の可能性も視野に入れて提案するなど、患者さん一人ひとりに合わせたテーラーメイドの医療を提供することで、信頼関係を築き、長く通っていただけるようなクリニックでありたいと願っています。」

組織を動かすリーダーシップと地域への貢献：信頼関係の構築

中澤先生は、クリニックを運営する上で最も難しいのは「人」であると語ります。特に、ご自身が「強く言えるタイプではない」と自認する中で、いかに組織を動かすかという点について、独自のリーダーシップを発揮しています。
「私自身が一生懸命仕事に取り組むことで、スタッフに『院長が頑張っているから、私たちも頑張ろう』と思ってもらえるような存在でありたいと思っています。自身の仕事量を減らすことはせず、むしろ積極的に新しい仕事を取りに行くことで、組織全体が常に成長し続ける環境を作っています。」

また、朝礼での情報共有やミーティングを通じて、実務的なマネジメントは師長をはじめとする信頼できるスタッフに一任することで、中澤先生が医療業務に専念できる体制を構築されています。

地域との連携も中澤先生の重要な使命の一つです。単に医療を提供するだけでなく、地域の商工会に参加し、お祭りなどのイベントにも積極的に参画することで、地域住民との交流を深めています。

「病院は『特別な場所』というイメージがあるかもしれませんが、私たちは地域に密着した『身近な存在』でありたいと考えています。地域の方々と直接交流し、顔と顔を合わせることで、初めて信頼される医療機関になれると思っています。先輩の中には『協賛金を払えばいい』と言う人もいますが、私はそれだけではダメだと考えています。自ら足を運び、地域の方々と人間関係を築くことで、初めて真の意味で地域に溶け込めるのではないでしょうか。」

これは、単なるビジネスライクな関係ではなく、地域社会の一員として、深い絆を築き上げようとする中澤先生の真摯な姿勢が表れています。

未来を見据えた挑戦：AI時代の医療と医師の役割

AIやDXの進化が医療業界に大きな変化をもたらす中で、中澤先生は医師としての「原理原則」を忘れないことの重要性を強調します。

「AIが導入され、電子カルテの自動読み込みなど、診療が効率化されていくのは間違いないでしょう。しかし、その中でも、医師が正しい知識を持ち、患者さんに真摯に向き合い、丁寧に説明する姿勢は決して変わってはいけないと考えています。AIが全てを解決してくれる時代になっても、患者さんは最終的に『人』である医師の言葉を信頼し、安心を求めます。それが、今後の医療における医師の差別化要因となり、患者さんとの信頼関係を築く上で最も重要な要素になるはずです」

泌尿器科医として、常に新しい治療法や医療のあり方を模索し、地域医療の発展に貢献し続ける中澤先生。その情熱と行動力は、地域の人々に「安心」というかけがえのない価値を提供し続けています。中澤先生のクリニックは、まさに地域医療の未来を切り拓く先駆者として、その役割を全うされています。