※本ページ内の情報は2026年8月時点のものです。
2026年の診療報酬改定は、内視鏡検査やポリープ切除を行うクリニック経営に大きなインパクトを与えました。特に「短期滞在手術等基本料1」の減算は、従来の診療スタイルのままでは大幅な減収を免れない厳しい改定内容となっています。
一方で、ベースアップ評価料の強化や各種連携加算の新設など、経営の舵取り次第では新たな成長の機会と捉えることも可能です。
厳しい環境変化の中で、内視鏡クリニックはどのように課題を克服し、持続可能なクリニック経営を実現すべきなのか。
医療機関の経営支援で豊富な実績を持つ、株式会社 船井総合研究所で内視鏡を専門とするコンサルタント 関根 奈々氏に、改定のインパクトと今後採るべき経営方針・具体策について話を伺いました。
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――2026年の診療報酬改定ですが、内視鏡クリニックの経営にはどのような影響があるのでしょうか。
関根:
今回の改定で内視鏡クリニックにおいて特に大きいテーマは、「短期滞在手術等基本料1」の減算です。多くの先生方がすでに把握されていると思いますが、現行の1,350点から680点へと半減する形になっています。
たとえば、月50件のポリープ切除を行っているクリニックであれば、件数が変わらなくても、単純計算で月34万円ほどの減収になります。
つまり、同じだけ働いていても売上だけが落ちてしまうということです。これは内視鏡クリニックにとって非常に大きな減算改定だと言えますね。
――かなりの影響額ですね。他に注目すべき改定項目はありますか。
関根:
そうですね。もうひとつ大きいのはベースアップの強化です。
これまで十分に対応していなかったクリニックもあったかもしれませんが、医療事務、看護師、医師の給与を上げていくという国の方針が、今回の改定でより明確になったと感じます。
点数も以前より大きく上がっているため、今回からしっかり取得しようと考える先生方も増えていくと考えられます。これを取得していくことで、地域の他クリニックとの採用競争にも対応しやすくなります。
また、連携強化に関する加算も新設されています。たとえば、病院からクリニックに患者が紹介された際の加算や、糖尿病患者を眼科や歯科に紹介した際の連携加算などです。ほかにも、物価対応や、生活習慣病患者に対する外来データ提出加算などもあります。短期滞在手術等基本料の減収分を、こうした加算でどう補うかが大きな論点になります。
全体としてまとめると、内視鏡検査、特にポリープ切除に関連する売上は大きく落ちます。そのため、この減収をどうカバーするかが最大の対策になります。
さらに、ベースアップ加算を取得するクリニックが増えることで、医療事務や看護師の給与引き上げも地域全体で進み、採用面の競争も厳しくなりますね。
加えて、連携対応など、これまで以上に経営面での負担が増えると考えられます。プレイヤーとして診療しながら経営も担っている先生にとっては、経営負荷がさらに増す改定だと言えます。
内視鏡クリニック経営の方向性は大きく2つ

――こうした厳しい改定を踏まえて、今後クリニックはどのような経営方針を採るべきでしょうか。
関根:
今後取るべき経営方針は大きく2つあります。1つは「内視鏡専門特化」、もう1つは「消化器総合かかりつけ」です。
内視鏡専門特化型:高付加価値・自費展開で差別化する
まず「内視鏡専門特化」とは、内視鏡の質を高め、さらに消化器領域の自費診療まで広げながら、消化器分野を広範囲にカバーする診療スタイルです。ADR(腺腫発見率)に特化した施策や検査オペレーション、自費の内視鏡ドックや人間ドックへの注力、さらには消化器に関連したサプリなど自費領域への展開、大腸カメラ比率を高めて単価を担保することなどが含まれます。
消化器総合かかりつけ型:LTVと通院継続を重視する
もう1つの「消化器総合かかりつけ」は、生活習慣病と内視鏡を軸にしながら、より広範囲なかかりつけクリニックを目指す方針です。ここでは、通院継続やLTV(患者の生涯価値)の向上を重視します。内視鏡検査に加えて生活習慣病診療の軸を立て、どちらを入り口にしても最終的には長期的に関われる、内科・消化器内科の複合型かかりつけクリニックになっていくことが重要です。また、生活習慣病の患者に必要に応じて消化器検査を案内できる院内導線も重要になります。
両方に共通するリピート率向上の重要性
――方向性は異なりますが、共通する重要なポイントはありますか。
関根:
この2つに共通しているのは、内視鏡検査のリピート率を保ちながら、新患だけに頼らない形をつくることです。また、いずれの方針でも内視鏡検査の集患力は必要であり、入口を増やしつつ、そこからLTVを高めていく必要があります。
内視鏡クリニック経営の収益を強化する3つの戦略
――具体的な実行プロセスについてお聞かせください。売上を維持・拡大するための戦略はどう組み立てればよいでしょうか。
関根:
答えはシンプルで、売上は「数 × 単価」で決まります。したがって、戦略は3つです。数を増やすこと、単価を上げること、そして保険診療以外の自費の軸を確立することです。
戦略1:Web集患依存を脱却しリピート・定期受診を最大化する

――1つ目の「数を増やす」について、集患のトレンドに変化はありますか。
関根:
これまでもホームページの改善やリスティング広告によって、内視鏡検査につながる新規患者を獲得する支援を行ってきました。
しかし近年は、ホームページや広告で新患を集めること自体が当たり前になっています。AIの影響もあり、競合クリニックもホームページを刷新し、広告費を増やしているため、広告競争が激化しています。その結果、広告費と売上のバランスが崩れるケースも増えているんです。
そこで新しい戦略として重要になるのが、「リピート」と「定期受診」を重視するスタイルです。
Web施策だけで勝負する時代には限界が来ています。リピート中心の経営にシフトすることで、広告コストを抑えながら、患者にファンになってもらい、ストック型の安定経営に近づけることができます。診療報酬改定の影響も受けにくくなります。
実際、内視鏡クリニックの定期受診率には大きな差があります。開業年数が近いクリニック同士でも、低いところでは20%程度、高いところでは80%近いリピート率になっていました。これだけ差があれば、新患で埋めなければならない枠数も大きく変わります。
したがって、リピート対策をしっかり行い、予約枠を安定して埋めることが重要です。
――リピート率を高めるためには、どのような取り組みが有効でしょうか。
関根:
ここで重要なのが「満足度 × 医学知識 × トリガー」というフレームワークです。
満足度向上(検査のネガティブ体験をゼロへ)
まず満足度です。内視鏡検査には、痛い、下剤がつらいなどネガティブな要素があります。まずはそれをゼロに近づける工夫が必要です。鎮静剤の活用、下剤への工夫、下剤の飲み方の丁寧な案内などです。
その上で、ゼロからプラスをつくる視点も必要です。たとえば、下剤を飲んでいる時間をどう過ごしてもらうか、検査結果説明用紙をどう工夫するか、接遇をどう高めるかといった点ですね。
医学知識の提供(患者と家族の理解促進)
次に医学知識です。リピート受診の大切さを患者にしっかり伝える必要があります。最近は患者本人だけでなく、家族など周囲のステークホルダーも巻き込んで医学知識を伝える事例も出てきています。家族向け資料をつくったり、患者が家族に説明しやすいツールをクリニック側で準備したりすることも有効です。
トリガー(適切なタイミングでの案内)
最後がトリガーです。満足度が高く、受診の重要性を理解しても、患者は忘れてしまいます。そのため、適切な時期にリマインドする仕組みが必要です。はがき、LINE、メッセンジャー、メールなどを活用し、再受診のきっかけをつくることが大切です。
戦略2:検査の質とオペレーション改善で単価を上げる

――2つ目の戦略である「単価を上げる」方法について教えてください。
関根:
単価を上げるうえで、大腸カメラを実施しているクリニックでは、まず大腸カメラ比率を高めることが重要です。そのためには、集患施策とオペレーション改革の2つが必要です。
まず集患面では、大腸カメラに対する患者の不安要素をしっかり捉えたWebマーケティングが必要です。近年は「痛くない」「下剤が飲みやすい」だけでは差別化しにくくなっています。そこで、腺腫発見率など「質」に関する情報をしっかりアピールしていくことが重要です。
最近だと、患者は「大腸カメラ 見落とし」「ポリープ 見逃し」「内視鏡専門医 評価」「大腸カメラ検査 時間」「内視鏡 AI」など、質に関わるキーワードでも検索しています。
したがって、クリニックの大腸カメラ検査の質を説明する専用ページをつくり、不安を解消しながら予約につなげる導線をWeb上に設計することが有効です。
――オペレーション面ではどのような工夫が求められますか。
関根:
大腸カメラ枠を増やすには、質を落さず効率化する必要があります。先生方からは「質にこだわりたいので検査時間はしっかり確保したい」という声をよく聞きます。これは非常に重要です。したがって、観察時間そのものではなく、それ以外の準備や段取りの時間をどう効率化するかが鍵になります。
一般的には、検査外のダウンタイムは平均6分程度で、かなり早いクリニックでは4分程度を目指しています。まずは自院でどれくらいかかっているかを分析し、どの工程に何分かかっているのか、絶対に必要な時間はどこか、削減できる部分はどこかを明らかにすることが重要です。4〜5分のダウンタイムを目標に見直すことで、同じ時間帯でも大腸枠を増やせる可能性があります。
さらに、予約コントロールも重要です。患者の年齢や性別によって検査時間が長くなりやすい傾向が院内データとして把握できれば、特定の患者層が連続しないように予約を組むなど、1日の中での枠の取り方のルールを設計できます。こうした分析と予約設計によって、大腸カメラ枠を拡大していくべきだと考えています。
戦略3:保険診療に依存しない自費診療の軸を確立する

――最後の戦略である「自費への挑戦」についてもお聞かせください。
関根:
今回の診療報酬改定を踏まえると、保険診療だけでは厳しさが増していくため、今こそ消化器領域における自費診療への着手を検討すべきだと言えます。
大きくは、消化器の人間ドック・内視鏡ドックと、腸活・予防医療領域への展開があります。人間ドックについては、ポータルサイトの活用や、適切なメニュー設計・価格設定を行い、ターゲットに合わせたWebマーケティングを実施することが重要です。
また、腸活や予防医療への参入では、OEMを活用してクリニックブランドの商品を開発することも選択肢になります。たとえば、独自のサプリや酵素商品など、医師の考えを反映した商品開発を進め、クリニック独自の価値をつくっていくことが提案できますね。
内視鏡クリニックの課題を克服し安定経営を目指すために
――最後に、経営に悩む内視鏡クリニックの院長先生方へメッセージをお願いします。
関根:
今回の診療報酬改定は、内視鏡クリニックにとってかなり厳しい内容です。しかしその中でも、今回お伝えした「2つの経営方針」と「3つの経営戦略」を踏まえ、数を増やす、単価を上げる、さらに自費という新しい軸をつくることが、今後ますます重要になってきます。
環境の変化に対して、早い段階で取り組むことが成功の鍵となります。不安をお持ちの先生方は、ぜひ一歩踏み出して対策を進めていただきたいですね。
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