屋号に「泌尿器科」は入れない~徹底した患者目線で実現した女性専門泌尿器科クリニックの挑戦~

  • 泌尿器科
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執筆者荻野 万葉
コラムテーマ取材レポート
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大阪の淀屋橋駅直結ビルに院を構える「山口あきこクリニック」は、開院から13年を迎えました。同院は「女性泌尿器科」と「婦人科」を融合させ、女性のデリケートな悩みに総合的にアプローチしています。本稿では、院長の山口先生に、既存の枠組みにとらわれない「患者目線」のさまざまな取り組みについてお話を伺いました。

取材協力:
医療法人 快裕会 理事長
山口 晶子 氏

1. 開業の原点:「手術の手前」にいる悩める女性の受け皿を作りたい

山口先生のキャリアは、小児泌尿器科医からスタートしました。転機が訪れたのは約20年前、まだ黎明期だった「女性泌尿器科」の分野が立ち上がった頃です。当時の教授から「女性医師だからこそ、この分野をやるべきだ」と声をかけられたことがきっかけでした。

当時は地元の愛媛県で研鑽しておりましたが、チャレンジするのであれば、人口数も多く、泌尿器科という科目が確立できていて、最先端の手術が学べる大阪の女性泌尿器科の専門病院へ赴任することを決めました。

そこで直面したのが、ハイボリュームセンターならではのジレンマでした。

女性泌尿器科の専門病院は、手術を前提とした患者さんでないと受診ができない場所になっていました。そのため、手術をするほどではないけれど症状に困っている人や、そもそも手術が必要か分からず悩んでいる人の受け皿がない状態だったのです。特に女性の泌尿器科医がまだ少ない時代であったため、泌尿器症状に悩みながらも、恥ずかしくて受診できなかった患者さんを多く診てきました。

「女性患者さんが手術の手前できちんと診断を受け、内服治療や通院での治療が可能なのか、病院へ紹介するべきかをしっかりと診療できる場所を作りたい」

――その強い思いが、開業への原動力となりました。

さらに山口先生は、患者さんの受診のハードルを下げるため、女性泌尿器科だけでなく「婦人科」も自ら診療することを決めました。

女性にとって、下腹部の悩みは境界線が曖昧です。例えば「トイレで血が出た」というとき、それが婦人科の『不正出血』なのか、泌尿器科の『血尿』なのかは自分では判断できません。双方の目線から総合的にアプローチすることで、女性が迷わず、安心して何でも相談できる窓口を目指しています。

2. 患者さんの通いやすさを第一に考えた独自の「場所選び」と「クリニック名」

開業にあたり、山口先生が何よりもこだわったのが「患者さんの心理的ハードルをどれだけ下げられるか」ということでした。その想いは、クリニックの場所選びと名前に真っ直ぐ反映されています。

選んだ場所は、大阪の中心地・淀屋橋の駅直結ビル。

「尿漏れや頻尿の悩みって、地域密着のクリニックだと『近所の人に見られたらどうしよう』と通いづらい分野なんです。だからこそ、知り合いの目を気にせずアクセスできる場所が必要でした。梅田も候補でしたが、駅が広すぎて迷ってしまう。それなら一駅隣の淀屋橋で、駅直結の方が迷わず来られて親切だなと思ったんです」

実は開業当時、京阪電車の終点であることや、これほどのオフィス街であることを「あまり認識していなかった」と笑う山口先生。しかし結果として、京都方面からのアクセスも良くなり、今では20~30代の働くOL層が月経困難症などで多く来院するきっかけにもなっています。

さらに、あえて「泌尿器科」という言葉を入れなかったクリニック名にも、細やかな配慮があります。

「お財布に入る診察券に『泌尿器科』って書かれていたら、やっぱりちょっと恥ずかしいですよね。ただ、女性の先生なんだなということだけは分かってほしくて、『山口あきこクリニック』という名前に決めました」

あえて科目を前面に出さない医院名と、プライバシーを守れる立地。こうした徹底的な「患者目線」の工夫が安心感を呼び、今ではオフィス街の働く女性たちだけでなく、女性医師を頼って遠方から家族と一緒に訪れる70~80代の高齢の患者さんまで、幅広い世代の女性たちに支持されています。

3. 自費診療の導入:選択肢を広げ、女性の心に寄り添う配慮

保険診療を軸にしつつも、尿漏れや膣のゆるみといった女性特有の切実な悩みに対しては、一歩踏み込んだ自費診療の選択肢も用意しています。同院が取り入れているのは、作用機序の異なる2つのアプローチです。一つは、超音波(HIFU)を用いて膣壁のコラーゲン再生を促す「ウルトラヴェラ」。もう一つは、服を着たまま座るだけで骨盤底筋を鍛えられる「ペルーナ」です。

「膣にアプローチするウルトラヴェラは、従来のレーザー治療に比べて痛みやダウンタイムが極めて少なく、1回の施術で効果が期待できるのがメリットです。骨盤底筋を鍛えるペルーナに関しても、効果はもちろん、より多くの方に受けていただきやすい価格でご提供できるものを選びました。アプローチは異なりますが、どちらも身体的・費用的な負担を最小限に抑えながら、保険診療にプラスアルファの安心をお届けしたいという想いで導入しています」

自費診療の提案方法にも、山口先生の細やかな配慮が息づいています。

「当院は大半の方が保険診療をベースに来院されます。だからこそ、自費診療という選択肢も身構えずに知っていただきたいんです。こちらから強くお勧めすることは一切ありません。診察室の壁に分かりやすい案内を掲示しておき、患者さんが次の診察を待つ間に眺めて、興味を持たれたタイミングでいつでも気軽に相談できる環境を大切にしています。」

このように、確実な保険診療から、日常のQOLを高める自費診療まで「どちらのニーズにも誠実に応えてくれる安心感」こそが、山口あきこクリニックが多くの女性から選ばれる理由の1つとなっています。

4. 今後の展望:受診のハードルを下げ、次世代の女性医師のモデルケースへ

尿漏れや頻尿といったお悩みは、命に直接関わるわけではありません。しかし、日々の生活の質(QOL)を大きく損なってしまう切実な問題です。

「宝塚の歌劇を観に行けた」「3時間の映画を最後まで安心して楽しめた」

――そんな、日常の小さな幸せを取り戻した患者さんたちからの報告が、何より山口先生の原動力になっているといいます。

クリニックの展望について、山口先生はこう語ります。

「尿漏れで悩んでいても、恥ずかしさから泌尿器科への受診をためらってしまう女性はまだまだ多くいらっしゃいます。そうした方々が少しでも抵抗なく、安心して相談できる場所として、当院の存在をさらに広げていきたいです」

そして山口先生の視線は、未来の医療界にも向けられています。

「今、若い女性の医師が増えています。私がここで診療と経営をしっかりと両立させ、新しい試みを形にしていくことで、彼女たちが『女性泌尿器科という分野でも、十分にやっていけるんだ』と未来を描けるような、一つの指標(モデルケース)になれたら幸いです」

執筆者 : 荻野 万葉

大学卒業後、新卒で船井総研に入社。大学では再生医学を専門に学び、胚培養やゲノム解析を応用した不妊治療クリニックでの職務経験から、これからの地域社会における医療の役割の重要性を知り、医療を通じた社会貢献を目指します。「地域の患者さんから選ばれるクリニックづくり」をメインテーマとして掲げ、Webマーケティング・診療効率化・スタッフ採用・マネジメントなど幅広いテーマでクライアントをサポートしています。